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最高裁判所第二小法廷 昭和29年(し)41号 決定 1954年7月30日

主文

本件特別抗告を棄却する。

理由

本件特別抗告申立の理由は、高等裁判所のした即時抗告決定に対しては刑訴四二八条二項により異議の申立が許されるのにこれを棄却した原決定は憲法に違反するか又は憲法の解釈を誤ったものであるといい、右既決囚都築博が昭和二八年六月一二日高松高等裁判所にした汽車顛覆未遂被告事件についてした控訴の取下は精神喪失者の無効の行為であって本件はなお鑑定していないから刑の執行は違法であるというのである。

しかし、高等裁判所が抗告審としてした決定に対しては、刑訴四二七条により抗告をすることができず、またこの場合同四二八条二、三項の適用のないこと当裁判所の判例とするところである(昭和二七年(し)四七号同年九月一〇日第二小法廷決定、刑集六巻八号一〇六八頁)から、所論は違憲論の前提を欠く。而も刑法上心神喪失者であるというのはその犯行の当時において行為の違法性を意識することができず又はこれに従って行為をすることができなかったような無能力者を指し、訴訟能力というのは、一定の訴訟行為をなすに当り、その行為の意義を理解し、自己の権利を守る能力を指すのであるから両者必ずしも一致するものではない。右都築は汽車顛覆未遂被告事件において責任無能力者であった旨の鑑定の存することは記録上明らかであるが、それだからといって訴訟無能力者とはいえないばかりでなく、本件執行異議申立事件の記録に徴しても訴訟能力ありとした原々審及び原審の判断を誤りとする理由を発見できない。所論はその内容においても理由なきものである。

よって刑訴四三四条、四二六条一項に従い、裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

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